TAMのブログ

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「肯定」からみる、喜多見柚と『思い出じゃない今日を』【全文公開】

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こんにちは、TAMです。

以前の記事でもお伝えした、喜多見柚ソロ曲記念合同誌「冬の足跡、春の足音」の頒布終了に伴い、内容の公開許可が出ましたので、このブログにて公開させて頂きます。

1年前に公開されたソロ曲「思い出じゃない今日を」について、私なりの解釈をまとめて書きました。曲と合わせてぜひご覧ください。

 

※本記事では楽曲「思い出じゃない今日を」の歌詞を、引用の形式に則って一部掲載しています。

歌詞の引用部分はこのようにblockquoteタグおよび斜体により区別しています。

 

 

『思い出じゃない今日を』という楽曲を、そして喜多見柚というアイドルを語るにあたって、今回は「肯定」というキーワードを軸に話をしてみたいと思います。
この曲は、柚自身を取り巻く様々なものに対する肯定が歌われたものである、と考えています。その「肯定」が具体的にどういうもので、どういう対象に向けられたものなのか、一つずつ話していこうと思います。

 

まず、何よりも自分自身に対する肯定です。「自己評価」「自己肯定感」というワードはその人のパーソナリティを語る上で重要なアイテムの一つですが、こと柚に関しては、その「自己肯定感」こそがアイドルとしての一大テーマでもありました

喜多見柚というアイドルは、天真爛漫・元気いっぱいなアイドルではありますが、一方で自分に自信が持てない、自分から前に出ようとしない性格であったことは、この文章を読んでいる皆さんならご存知の事かと思います。
主役ではなく、場を盛り上げるための引き立て役になろうとする。それはそれで必要なポジションではありますが、アイドルという自分自身を積極的に売り出していく必要がある仕事においては、その控えめさはプラスとはなりにくいものです。そのことは柚自身も認識しており、直していかなければと思っている部分でした。

 『ほら、アタシ、あんまり前に出るタイプじゃないし。ちょっと下がったところで、みんなを盛り上げるくらいが安心なんだー。でも、もうアイドルなんだし、このまんまじゃ、ね。』
デレステ [フード☆メイド]喜多見柚の特訓エピソード)

 

彼女がこのような性格を持っている理由として、私は「柚が、自分の長所がどこなのか答えられないこと」が重要な原因であると考えています。柚はプロデューサーに道端でスカウトされてアイドルになった女の子です。その時は「楽しそう」という安直な理由で飛び込んだものの、自分がプロデューサーにスカウトされた理由、ひいては自分のアイドルとしての魅力はどこなのかという事について、長い間納得することができませんでした。
自分のイイ所、自分らしさ、といったものを認識できていない状態――言い換えれば「自己肯定感の少ない状態」では、自分に自信を持って、自分を前に出していくことは難しいでしょう。そのような背景が柚にはあったのではないかと思っています。

ですが、柚はアイドル活動を続けていくなかで、自分が周囲に受け入れられていくことを経験していきます。それは自分自身の力でもあるし、また周りの存在からの助けもあったでしょう。そのような経験を通じて、柚は少しずつ自分への自信を手に入れ、また自分の魅力についても理解し始めます。柚にとってのアイドル活動は、彼女にとって「自らを肯定するための行い」でもあったのです。

 『プロデューサーサンがアタシを選んでくれた理由、ようやくわかった気がするんだっ。今の柚、たぶんすごくイイよね。もっと輝きたいな!』
モバマス [イノセントカジュアル]喜多見柚+ 親愛度MAX演出)

 

そうした柚の歩み、その成果が、この曲にも表れています。『思い出じゃない今日を』の1番では、アイドルという世界に飛び込んだ柚の不安、それを周りの人々が解消してくれたこと、そしてその事への感謝が語られています。

 あのね、この世界に飛び込んでさ
 ホントは不安な日もあったんだよ
 アタシは何か叶えるのカナって
 ただ光の中を漂うのカナって

 でもね、ワクワクは止まらない
 友達や仲間たちが そしてキミが
 思い出じゃないアタシ自信を作ってくれた

 ありがとう 今までの精いっぱいで応えるよ
 それが未知のアタシへと
 また 叶えるべきものと変わり
 思い出を越えて続くから

 

柚がアイドル活動を通して、自信を手に入れられたこと。そこには友人や仲間の助け、ファンからの声援、そして何よりアイドルになるきっかけそのものをくれた、柚はアイドルになれると信じてスカウトしてくれた、プロデューサーの存在があってこそのものだった。
だからこそ、皆が与えてくれたその「自信」をもって、自分の全てを出し切って応えることこそが、皆への恩返しでもあるし、自分にとっても楽しくて素晴らしいことなのだ。
そんな柚の意思表明、決意が表れた歌詞になっているな、と、自分は歌詞カードを見て感じました。

この曲は、柚が自分自身を肯定することができたから、できるようになったからこそ生まれた曲だと思います。
自分に自信の持てなかった柚が、アイドル活動を通して自信を手に入れたことで、初めてこの曲に気持ちを込めて歌うことが出来た。彼女がこの歌を歌ったということ自体が、柚がアイドルとして、また人間として「成長」したことの証であると思っています。

 

さらに、この曲にはもう一人、肯定の対象となる人がいます。プロデューサーです。

ここからは完全に根拠のない、私の想像となりますが……柚をアイドルにスカウトしたことについて、不安に思っていたのは柚だけではないだろうと。プロデューサー自身も、また違う意味での不安を感じていたのではないか、と自分は思っています。

プロデューサーは、一人の女の子の人生を大きく変えうる存在です。多感な学生時代の女の子たちを、華やかだけど厳しい争いの世界に連れていく、そんな業を抱えた存在でもあります。
ましてや柚は、アイドルになりたいとかアイドルにとして何かを成し遂げたいといった思いがあるわけでもない、自分自身を「普通」と語る女の子。きっと彼女はアイドルにならなかったとしても、それなりの幸せをその後の人生で手に入れていたでしょう。少なくとも自分はそう思っています。
柚をアイドルという未知の世界に連れていくことについて、本当にそれでいいのかという懸念が無いはずがありません。彼女をスカウトしたとき、彼女の人生を良くも悪くも大きく変えてしまうことについて、きっとプロデューサーにも不安があったはずなのです。

 

そして、『思い出じゃない今日を』には、そんなプロデューサーへの不安に対するアンサーも含まれています。

 

 一人の足跡はまっすぐな一本だけでも
 交じり合って生まれた歌が こんな日々の証なら
 アタシ、キミに会えて本当によかったよ

2番にて歌われるこの「キミ」が誰であるか、明言はされていません。含みをもたせていますし、実際にはプロデューサーだけでなく友人や仲間、ファン、あるいは人ではなく物や概念も含まれていることでしょう。
しかし、「キミ」をプロデューサーとして見た場合、そこには柚の、プロデューサーへの確かなアンサーが込められていることは間違いありません。

自分をアイドルという世界に飛び込むきっかけをくれた。アイドルとして歩み、アイドルとして成長して、アイドルとして『思い出じゃない今日を』を歌った。そこに間違いや後悔など、あろうはずがない。
この歌を通して、プロデューサーと出会ってからの全ての日々を、彼女は肯定してくれています。

 

 歌おうよ キミも一緒に
 叫ぶよ「今が楽しい」!
 そうやって笑えるなら それでオッケー!
 もう未来じゃなくてさ 今が奇跡なんだ

 そして何よりも、「楽しい」がモットー・楽しければオッケーな柚が、『今が楽しい』と叫ぶこと。それこそが、柚にとっての一番の「肯定」です。彼女がアイドルとして歩んできた道に、何も間違いなどなかった。柚はこの歌を歌う事で、プロデューサーと歩んできたその全てを、全力で肯定しているのです。

 

 『アイドルってさー、最高だよねっ♪』
モバマス [シトロンデイズ]喜多見柚+ お仕事)

これまで自分には、柚の担当プロデューサーと名乗っておきながらも、柚がアイマスという世界にいること、柚をアイドルにスカウトしたという事について、ある種の後ろめたさを感じていました。
ですが、モバマスデレステに登場した【シトロンデイズ】や、この『思い出じゃない今日を』を通して、その不安に対して柚からのアンサーをもらえたような気がして、それが自分にはとても嬉しかったです。

 

このように、『思い出じゃない今日を』という曲は、様々な対象への肯定のメッセージが込められています。自分を、周囲の人々を。そして、アイドルとしての過去の歩みを、現在を。

そして、その結びで歌われるのは、「未来」への肯定。「これまで」ではなく、「これから」も、この歌は肯定してくれます。

 足跡はいずれ消えても
 会えるよ いつか
 あの日に雪融けを受けて吹いた芽が
 今日も景色を作ってる

 そうやって ありふれた日々をずっと
 キミと歩いていこう

自分のこれまでの歩みを、そこに関わったすべての人や物事を肯定することが、ひいてはこの先の未来への期待、その根拠にもなっている。まだ分からない未来に対しても、過去や現在が力となって、その先に進む後押しとなってくれる。
『思い出じゃない今日を』には、そんな未来への自信についても言及しています。

先のことは分からない。でも、きっと大丈夫。なぜなら、これまでも、これからも「キミ」がいるから。そんな力強いメッセージを、最後に投げかけてくれています。

 

 『これから、きっともっとハッピー♪』
モバマス [シトロンデイズ]喜多見柚+ マイスタジオ)

 

『思い出じゃない今日を』について、語りたいことはまだまだありますが、今回は「肯定」という一つの切り口から書かせて頂きました。

ずっと待っていた柚のソロ曲、柚の「これまで」と「これから」の全てが詰まった素晴らしい曲です。この文章では歌詞についてだけ触れましたが、言うまでもなく音楽についても、喜多見柚と切っても切り離せない「冬」の情景を思い起こさせる素晴らしいものですし、演者である武田羅梨沙多胡さんの歌唱、またライブで見せてくれたパフォーマンスも、本当に感動しました。
それらのすべてが一体となって『思い出じゃない今日を』を形作っているのだと思います。

この曲が、柚と柚にかかわる全ての人に永く愛される楽曲になって欲しいと思うし、またそれだけの魅力がある楽曲だと、私は信じています。